その理屈が通用するとすれば、
国債だけじゃなくて、政府が日銀にあずけている
政府預金もちゃらになる。
それどころか、
日銀の負債であるベースマネーも
政府の債務になる。。。
実は、この認識はそれで正しいんだけれど、
となると、今度は
「国債がちゃらになる」だのなんだのじゃなくて
そもそも「財政問題」そのものが
最初っから存在しなかったことになってしまう。つまり、
そもそも財政破たん問題というのは何か、と
考えてみると、
政府は、国民から税を徴収する。
そして徴収した税は、
政府預金として、政府の資産になる。
政府が支出するときには
この政府の資産である政府預金を取り崩して
それで、民間のサービスや資産と取り換えることになる。
だから、税収が支出より少ないと、
政府預金が枯渇して、支払いができないことになってしまう。
だから年間の税収が支出より少ないときには
国債を発行して、民間から資金を集めて
それで政府預金が枯渇しないように
努めている。しかし、
そのうち、国債が発行できなくなり、
あるいは発行してもだれも買ってくれなくなり、
政府預金を十分に満たすことができなくなり
支出を賄えず、政府預金が枯渇し支払いができなくなる、、、
これが、財政問題、といわれるやつです。
しかし、日銀と政府を連結(統合)してしまえば
そもそも政府預金が存在しない、ということになる。
枯渇しようにもどうも、最初っから存在しなかった、ということになる。
そして、ベースマネーは、政府の負債になる。
つまり、政府はモノを買うとき、
民間から集めた資産を支出するのではなく
その都度、ベースマネーという負債を発行しているのだ、ということになる。
資産と負債って、わかりますかね?
政府預金、というのは、政府の資産です。
政府は、この資産を取り崩して支払うことで
民間の資産を得ている、と考えられていた。
ところが、政府は、自分の資産を取り崩して民間に支払っているのではなく、
購入する度に、新たに負債を発行していることになる。
民間企業が、仕入代金を支払うのに
そのつど、手形を切っているのと同じことになる。
そして、租税とは、
政府が、資産を民間から集めるプロセスではなく
政府が発行した負債であるベースマネーを
回収し償却するプロセスということになる。
民間企業は、支払いの際に切った手形を
後日、お金で決済するわけですが、
お金(ベースマネー)自体が政府の負債なんだから、
政府はこれができない。ただ、徴税権をベースにして
民間が課税申告をすれば、
これが「未収税金」という政府の資産になる。
政府は、この資産によって負債であるベースマネーを
回収し、償却している、ということになる。
会計的に言えば、日銀と政府を連結する、
というのはそういうことであって、それ以外の解釈なんか、
あり得ないですよ。
そうなると、
国債発行は、統合政府が発行している
無利子の負債であるベースマネーを
有利子の負債である国債に取り換えるだけのことになる。
実際、通常の時期は、そうやって日銀は
インターバンクレート(銀行間の
取引の金利で、世の中の市場金利は、
ほぼすべてこれを直接・間接の基準として決まる)を
コントロールしているんです。
つまり、問題設定自体が全然変わるんですよ。
財政破たんは、そもそも「問題」になり得ない。
なぜなら、破たんしようにも
そもそも破たんするはずの政府預金というものが存在しないのだから。
政府預金が不足するも何も、
もともとないものが不足なんかするはずない。
問題は、政府の財政が破たんすることではなく
政府が、適切に負債(ベースマネー)の量を
発行するにはどうしたらよいか、ということになる。
もちろん、破たん論者の人たちが言うような
ハイパーインフレの可能性(論理的可能性)は
常にあるし、また、
対外収支が悪化し、それが長期化すれば
外貨建ての国債を発行せざるを得なくなり
そうなれば、もはや「合算してチャラ」という理屈は
通用しなくなる。そこまでいかなくても
外国為替をコントロールするため、
金利を高く維持するか、
それとも国債価格を維持するため、
金利を低くするか、という二者選択に迫られ
結果として、「選択的デフォルト」という事態が生じる
論理的可能性だって、ないとは言えない。
そうしたことが起こらないようにすることが、
政府負債の問題であって、
財政破たん問題など、そもそも問題設定自体が
おかしかったことになる。
ただ、いずれにせよ、
よくある「政府と日銀を連結すれば
相殺されてチャラ」説は、実はそれを唱えている本人が
資産とか負債の意味をよく理解していないケースが多い。
先日も、ある人が「財政問題は
解決した」とか、なんかの記事で書いているのを読んだけれど、
その人の場合、
日銀保有の国債だけでなく
政府預金もチャラになることも、
ベースマネーが政府の負債になることも、一見すると理解していた。
ところが滑稽なことに
「ベースマネーは、期日のない負債だから
ゆっくり支払えばいい」というようなことを書いて
実は何も(そもそも「負債」とは何かを)理解していない、という
馬脚をあらわにした。
国債は、ベースマネーで決済することになっている。
つまり、国債が支払われれば、それだけ
ベースマネーという新たな負債が増えるだけの話。
何も解決になんかなりゃしない。おまけに、
仮にそうやってベースマネーが増えたら(もっとも、
これを書いたご本人にはそういう認識はなかったようだが)、
今度はそれを何かで支払うのだという。いったい何で、
どうやってベースマネーを支払う?
で、仮に何かでベースマネーを決済してなくしてしまったら、
その後、日銀はどうやって銀行間の決済という
オペレーションをしようというんだ?
それは民間の決済ファシリティを使うか?
では、どうやって金利を安定させる?
危機が起こった時、誰が「最後の貸し手」になる?
コイン・紙幣は、誰が発行する?…
全く持って、馬鹿じゃなかろうか、でおしまいだが、
書いている本人は大まじめそうだし、
結構、真に受けている人もいたので、
やれやれ、なんだかなあ、、、という感じ。
まあ、いずれにしても
「連結すれば、日銀保有の国債『だけ』が
チャラになる」わけじゃない。話はそれでおしまいじゃない。
話の枠組みそのものが、全く変わることになる。
政府は、財政など持っておらず、
支出の度に、自分自身の負債を発行する、
ということになる。つまり、
問題設定そのものが、全く変わってしまう。