「~していたのですが」(丁寧語)は、「の」がついていますので、「~しており」の過去形と言えるかどうかは疑問です。(「ており」には本来の用法の謙譲語のニュアンスが残っています)
また「~しており、」を「~していますが」に置き換えることが適切なのかも疑問です。
「~しており、」は「~してい、」よりも改まった雰囲気を出したいためにやむなく採用された用法です。
下記の例のような場合以外には、適切な用法とは言えません。下記の例の場合には、
「~しており、」の過去形は「しておって、」になります。
現在形「駅でタクシーが待っており、」
過去形「駅でタクシーが待っておって、」(「おった」の連用中止)
◇連用中止の形(動詞の連用形で、読点をつけるなどして文を途中で一旦中止し、さらに次の文節に続けていく用法)
・情勢は緊迫し“ており”、予断を許さない、
このような改まった文の中で用いられる「~ており」は、自分を低めた表現ではありませんが、連用中止の「緊迫してい、」は言いにくいけれども、「緊迫していて、」よりも改まった雰囲気を出したい、というわけで、やむなく採用されたものです。
「おる」の本来の用法、すなわち謙譲語であることを意識する人の中には、「~ており、」の使用を好まない人もいるくらいです。
◇主語がモノ・コトで、敬意ゼロで文を作成するのに重宝されています。
主語が、取り立てて高める必要のない、もの・こと・動物など、人物の場合は、敬意を払わなくてもよい存在の場合、「ておる」が使われています。
軽い丁重語、すなわち謙譲語としての「おる」の働きが「ており」にも生きているということです。
・タクシーが待っており、
・大勢のファンが待っており、
・交渉は未だ合意に至っ“ておらず”
「~ておらず、」は、「~ていず、」の代わりに用いられているわけですが、この場合も、主語は特に高める必要のないものに限られます。
・・・・・・野口恵子氏の著書より抜粋・引用