2022年の年明け早々、北朝鮮が、連続して新型ミサイルの発射実験を行った。
速度がマッハ10を超える上に、変則軌道を取る極超音速ミサイルの開発が急速に進んでいる。
中国も今後、同種のミサイルをより大規模に実戦配備していくだろう。
明らかなのは、この速さのミサイルの迎撃は現在の技術でほぼ不可能であり、上下左右の軌道変更や飽和攻撃(同時大量発射)と組み合わされた時には、絶対に不可能だという事実である。
野球で言えば
「複数飛んでくる球速500キロの変化球」
に相当し、大谷翔平選手といえどもお手上げだろう。
核ミサイルに関する限り、世界は攻撃側が圧倒的に優位な時代に入った。
そうした時代には、報復能力を明示することで相手に攻撃を思いとどまらせる、即ち攻撃力によって攻撃を抑え込む以外ない。
戦後日本が金科玉条視してきた
「専守防衛」
は、常に100%間違っているわけではない。
例えば、城壁を這い登ってくる敵を、上から石を落とせば防げた石器時代なら充分成り立つ。
日本政治の不幸は、防御側優位の時代の戦術が、攻撃側優位が拡大する極超音速ミサイルの時代にも通用すると考える
「極超」
クラスの時代錯誤にある。
日本がミサイル迎撃に過大な期待を託し続けるならば、第二次世界大戦前のフランスが対ドイツ要塞網
「マジノ線」
の構築に国費を消尽した愚を繰り返すことになろう。
ドイツ軍は当然ながら、マジノ線を迂回して突入してきた。
特に、北朝鮮や中国のような独裁政権に抑止力を効かすには、司令系統中枢に耐え難い被害を与える能力を持つことが必須になる。
習近平氏や金正恩氏にとって本当に怖いのは、自身の
「無力化」
だけである。
中国で言えば最高幹部クラスが蝟集する中南海、北朝鮮で言えば金正恩執務室のある労働党本館、また、それぞれの軍の指揮統制所などが代表的標的となろう。
周辺の民衆にできるだけ被害を与えずに、これらの拠点を無力化する地下貫通型の強力ミサイルを、残存性の高い潜水艦に搭載して配備するというのが日本にとって常識に適った抑止モデルと言えよう。
それは概ね、イギリスが採用してきた
「連続航行抑止」
(continuous at sea deterrent,CASD)
戦略に近い。
英政府はこれを
「最小限の、信頼性ある、独立した核抑止」
と呼び、次のように解説する。
「英国海軍は、連続航行抑止即ち少なくとも1隻の核兵器装備潜水艦が、最も極端な脅威に対応するため、発見されずに常時パトロールを続ける態勢を維持してきた」
具体的には、バンガード級戦略原潜(全長約150メートル、乗員135名)4隻が、それぞれ16基のトライデントⅡミサイル(1基当たり核弾頭を3発装備できる)を積み、常時1隻は必ず海洋パトロールに出ている態勢を指す。
原子炉がエネルギー源のため、艦の能力としては燃料を補給せずとも世界を40周できる。
国民の命を真剣に考える政治家なら、こうした英国型抑止戦略を重大な参考事例とすべきだろう。
従来、攻撃力の保有を主張する責任ある自民党議員たちも、日本の言論状況を慮り、敵ミサイルを日本の領域内で破壊するか、相手領域内で破壊するかの違いに過ぎず、専守防衛の枠を外れるものではないとの理論立てを行ってきた。
しかし、この苦心の論は最近、公明党の山口那津男代表や自民党の河野太郎元外相ら親中派によって足を掬われるに至っている。
移動式発射台を想定した
「敵基地攻撃」
論は
「古い」
というのである。
親中派の本音は、とにかく低姿勢を維持して中国を刺激したくないという所にあるので、本質的に不誠実な議論であるが、実際、移動式ミサイルの動きを常時把握して、即座に無力化できるシステムを構築・維持しようと思えば、仮に技術的に可能としても、天文学的数字の予算が必要となる。
コスト面を考慮しても、やはりポイントは、日本に手を出せば、自らも司令部を破壊されると相手に思わせるだけの独自攻撃力を持つかどうかにある。
「核アレルギー」
論に安住していても大過ない時代は過ぎた。
山口那津男氏や河野太郎氏が答えるべきは、友好国イギリスが採用する
「連続航行抑止」
戦略もやはり
「古い議論」
なのかどうかだ。
敵「司令部」攻撃力を
月刊誌『WiLL』2022年3月号 島田洋一