人間いろんな境遇が重なって、想像もしなかったところに身を置くこととなることもある。
この坪内氏などはまさにそれ。
病気、大学中退、離婚、シングルマザーと人生で苦労だと言われることを経て、辿り着いた漁業という全くの素人であるところで、それを逆手にこれまでの常識を覆して新しいことにチャレンジする物語。
それを始めてから10年以上の長い旅であるが、今となってはなんとか軌道に乗ってうまく行っているからこそ美しく描ける物語となっているが、前著を出せるようになるまでの苦労は、本書にも詳しく書かれているが、相当なものだったと思う。
本書に書かれているようなチャレンジは、漁業という古い世界における問題ではあるが、これは日本の縮図だと思う。
「昔のルールが「ルールだから」という理由だけで存続している。知れば知るほど不可解な話ばかりだ。 ルールの存在よりも私にとって腹立たしかったのが、肝心の漁師たちが矛盾を感じていないことだった。時代に合わないなら変えるように働きかければいいじゃないか。なぜ、初めから「そういう決まり」の一言ですませてしまうのか」ということ。
ドラマでも悪者扱いの漁協であるが、「漁師の生活を守るという本来の目的よりも、組織の存続が優先される。その結果が今の硬直化したシステムにつながっているのだろう。 漁協が存続していくためには、漁業が栄えることが必要だ。そのためには変化を受け入れなければならない。変われなかった漁業者が廃業に追い込まれていくように、水産業界全体もこのままでは危うい」というのもまさに日本の産業界の縮図であり、日本の国家の縮図といえよう。
そんな大きな敵に闘いを挑んだ坪内氏は、自分は特別ではないというが、決してそんなことはない。
「もし私に少し特別なことがあるとすれば、障害が目の前に立ち塞がったときは、諦めるより、まず一つひとつ抜け道や妥協案を探し続けたことかもしれない」というが、これこそ今の日本人に最も欠けており、成長が止まってしまった原因。
「今なにかを変えなければ、生きていくことはできない。なにかを変えようとすれば必ず抵抗する人がいる。だが、諦めずに続ければきっと実現できる」というのは、本当に重要なことで、これができるリーダーはなかなかいない。
そういう点で、この坪内氏は物凄いリーダーなのである。
でも、この手の話を読んで思うのは、やはり成功している人はあまりにも凄すぎるということ。
「明日死んでも後悔なく生きたい。ポジティブな諦めというのか、ネガティブな勇気というのか。これを機に日々起きる出来事には、ほとんど動じることがなくなった」というほどの修羅場を普通の人は持たない。
そんな人はこういう人と対等に渡り合えるのだろうかと思ってしまう。
そして、最初にお客さまを紹介してくれた大阪の伊萩氏、西京銀行の平本氏などのような人にも恵まれる。
このような人脈も一生懸命しっかりと仕事をしているからこそ引き寄せられるものなのだろう、
坪内氏の事業も軌道に乗り始め、活動を拡大しているようである。
果たしてこの活躍が、日本の漁業自体を未来に向けて変えたのか、まだそこまでではないのか、それはまだわからないが、このような事例が日本のあちこちで起きてくれば日本ももっと元気になるのではないだろうか。
ドラマで漁協のお偉いさんを演じる梅沢富美男が言っていたように、自分たちのやっている間さえなんとかなればいいという考え方はもうやめてもらいたい。
将来の人たちがちゃんとやるべきことをやれるように、必要な変化を受け入れることこそが、今のお偉いさんたちのやるべきことなのである。
ドラマはかなりコメディタッチで描かれていそうだが、極めて重要な社会的メッセージが込められている。
ドラマではそれをどう描いていくのか、楽しみである。
女性が活躍する社会を目指して、坪内氏のように、男社会で過去の常識でガチガチに凝り固まった業界が、どんどん変化していくということが起きるといいと思う。お薦めです。