線画に関してはアナログでもデジタルでも結局手で描くことは同じなので 大きな差があるわけではありません。 ただし仕上げ部分に関しては 道具に習熟さえすれば圧倒的にデジタルの方が早くできます。 スクリーントーンというのは要は模様がプリントされたシールを カッターで切り取って貼り付けるんですが、 これはデジタルならワンクリックで領域内にトーンを貼ることができます。 (もちろん複雑な領域だと多少手間はかかりますが) 余談ですが、デジタルネイティブの世代はトーンを「貼る」ではなく、 トーンを「塗る」ということもありますね。 それくらい作業の感覚としては大きく違うものになっています。 複雑さにもよりますが、1ページの仕上げに1～2時間掛かっていたものが 数分～30分くらいで終わります。 単行本は一巻およそ160ページですので、 連載の分量を考えれば仕上げ部分が楽になるだけで ものすごい時間的金銭的リソースの節約が出来るのが大きいです。 時間は言うまでもないですが、 金銭的な負担が小さくなったというのも非常に大きいです。 スクリーントーンは漫画の原稿用紙とほぼ同じサイズのものが 1枚大体200～400円くらいで売られています。 作品を一本作るのにトーン代だけで 数千円掛かったりすることも普通なので、 クリスタなどのソフト代で元を取れるのはすぐです。 連載なんかしているプロは尚更ですね。 また、仕上げにアシスタントを使った人件費をかけなくて済むので、 その分背景に人員を割くことが出来るようになった面もあります。 アシスタントを専属のレギュラーとして複数使う人は 漫画の原稿料だけではほぼ赤字なので、 元手がない人でもある程度のクオリティの高い絵面を 作りやすくなったとは言えるかもしれません。 また、デジタルでは3Dを活用しやすくなったので、 何度も繰り返し出てくるアイテムやロケーションの作画コストを 大幅に削れるという部分も大きいでしょうね。 ただ、デジタルだったら誰でも いい感じの絵が描けるかと言うとそういうわけではなく、 あくまでもアナログだと時間がかかっていた部分を 楽にする機能がたくさんあるという感じですね。 ツールの習熟には時間がかかることもあり、 仕上げのみデジタルスタッフに全委任する形という場合も多いです。 身体感覚としてはやはり紙に線を引くのと ペンタブで描くのでは違ったりもしますから、 紙に拘る人は今でも少なくはないです。 スキャナーがあれば紙で描いたものも取り込んで仕上げが可能ですしね。 裏を返せば、かつていた仕上げ専用スタッフのようなアシスタントは 活躍できる場が激減した部分はあると思います。 アシスタントマッチングサイトなどを見ても、 背景やモブ(群衆)などを描けることが条件になっているケースが多いです。 --- デジタルならではの活用例としていくつかリンクもおいておきます。 3Dモデル自作体育館見開きの作業工程 (浜田よしかづさんのSketchUpを利用した漫画制作工程動画です) https://www.youtube.com/watch?v=PAUKymZigxQ ジャンプ掲載の漫画「キルアオハル」背景制作にUnreal Engine 4が採用 https://game.watch.impress.co.jp/docs/news/1376029.html Clip studio用3Dモデル 甲冑『逃げ上手の若君』 https://3d-modely.com/works/3dcg 繰り返し登場するケースなどでは作画コストが重いので 3Dを外注するなんてこともあります。 (20万は誰でも気軽には出せないですが、 甲冑は作画が大変なのでスタッフの人件費を考えれば安い経費でしょう) 「のだめカンタービレ」のように楽器が出てくる漫画みたいに、 何度も繰り返し出てくるアイテムがある作品などは 3Dの恩恵が非常に大きいです。