たとえば、回路を設計するときに抵抗やコンデンサの値を計算するためには数学の知識が必要です． また、スイッチング電源の設計をするときにコンデンサに流れる電流の実効値を求めるのに積分を使いますし、サーボなどフィードバック制御にはラプラス変換が不可欠です． でも、電気・電子工学で数学のもっとも重要な役目はものごとを表現するための「言語」です． 理工学でのもっとも重要な共通言語が数学で、それを表現する文章が数式です． ふだん人が会話に使ったり、書いたりする「自然言語」は意味が曖昧で工学的な内容を表現するのには不十分です． たとえば「電圧が時間とともに大きくなる」といってもどのように電圧が大きくなるのか明確ではありません． v(t)=2.3t^2+0.3t のように数式で表現すれば曖昧さはありません． また、「信号をフーリエ変換する」とか「相関をとる」というかわりにフーリエ変換の式や相関をとる式を書いておけば、数式に慣れた人ならなにをしようとしているのか明確にわかります． 互いに言葉がまったく分からなくても、数学や理工学の専門家なら黒板に数式を書いて会話ができる、といわれるゆえんです． 理工学のテキストには数式がたくさん書いてありますけど、それは「ものごとを表現するための数式」です． 読む人は数式の持つ意味を理解することでテキストの内容を理解するのです． 設計や研究開発の現場でも同じことです． 評価試験レポートや研究論文を書くための「言語」として数学は必須なのです．