あくまで伝承なので、正確かは別として、近年では左腕、というのが一般的です。例えば歌舞伎の演目である「茨木」では左腕ですし、神楽の演目である「羅生門」でも左腕となっています。
一方で左腕とされたのは、演目を演じる上で右腕を斬り落とされている(=左腕だけで演技しなければならない)とすると、演技に支障を来すから、という実務上の要請があった、という見解もあります。実際、初期の頃の歌舞伎では右腕を落とされたことになっているものもあったようです。
また、浮世絵画家である月岡芳年が江戸末期から明治初期にかけて描いた新形三十六怪撰の一つに「老婆鬼腕を持ち去る図」という、茨木童子が渡辺綱から片腕を取り返した場面を描いた作品がありますが、この作品では茨木童子は左手で片腕を握っていますから、右腕が切り落とされたことになります。
ここら辺を考えると、元々は右腕と考えられていたのが、近年になって左腕となった、とも取れます。いずれにしても、元々は定説がなかったのが、近年になって左腕で定着したのは間違いないのではないでしょうか。