1 夜勤者は10年短命 フランス政府の委託で「ヴィスナール教授が二万人の交代勤務労働者を対象に調査した結果、夜勤は寿命を10年以上縮めるとの結論が出た。夜勤労働者に最初にあらわれてくる症状はイライラ、意気消沈、不眠と胃病、これが次第に健康をむしばむ。そこで同教授はフランス当局にたいして、夜勤交代労働は10年以上させないことにするとか、そのあとの就職あっせんや再教育の機会を保障することを要求した」(『朝日新聞』1976年11月20日)と言うことです。
2 直ちに対策を講じたフランス政府フランス政府は、これを受けて関係閣僚会議をひらき、技術上不可能な場合をのぞいて、土曜日の夜勤、日曜日の早朝を含むような勤務形態を新たに編成することを77年1月1日以降禁止とし、すでに行っているところでも同様とするか、年間20回の日曜休日が与えられるようにし、77年に「労働の復権」に関する法律を施行し、夜勤従事者のために「温かい食事の提供を管理者に義務づける」、「休養室、宿泊施設に長椅子、防音、遮光設備の設置を義務づける」、「電話付きの休養室を作り、家庭に電話をかけられるようにし、夜間働く人の疎外感をなくす」、「交代制勤務者約200万人のために、夜放映した幾つかのテレビ番組を昼間再放送すること国営放送管理者に義務づける」などを明記しました。事務室にテレビを置くな、窓にブラインド、カーテンをするな、ポスターも張るななどと通達する、どこかの消防とは大違いで、夜勤の過酷さを正面からとらえ如何に健康と社会生活を護ろうとしているかがわかります。
3 睡眠時間が短いと高い死亡率人間にとって睡眠時間は一日7~8時間が最適です。表1のように7から8時間の睡眠を取っている人の死亡率を100としたときに、4~5時間の人の死亡率は、159になり4時間未満では280にもなります。また8時間をこえた睡眠をとる人の死亡率が増えるのは、それだけ眠らなければならないきつい労働をしているためです。睡眠時間が短くなるのは、夜勤労働者だけでなく、長時間労働者も同様で、11 時間以上の労働は、通勤や、生理的あるいは社会的に最小限必要な時間のため、睡眠時間が短くなるのです。
4 夜勤者に多い消化不良や胃腸障害名古屋大学医学部などが10,905人を調査したところ、日勤者の胃腸障害発生率が1.03%だったのに対し、夜勤者は 2.38%と二倍強で、過去に夜勤を経験した人は1.52%と中間の値を示しました。胃潰瘍、十二指腸潰瘍の全患者の三分の一が夜勤者で、健康な人の中に占める夜勤者の割合は五人に一人と少なく、夜間勤務が健康に悪影響を及ぼしている実態が明らかになりました。この背景には、①夜勤のストレスによる睡眠障害②その睡眠障害によっておこる不安定な精神状態などが、さらに③睡眠の異常そのものが自律神経を介してそぞれ消化管機能の変調を起こし、消化性潰瘍の発生の素地となっていると、研究者が指摘しています。
表1
5 夜勤に慣れるのはサルだけ 消防課勤務が長くなると、「体が慣れたよ」と言う人もありますが、オランダのヴァン・ローン博士の実験では、サルは1週間で昼夜リズムが逆転し、夜型サルになりますが、人間は13週間の連続夜勤でも変化は見られなかったといいます。このため、夜勤者が昼間寝ようとしても中々熟睡はできないのです。これは、第一に昼には、脈拍や血圧があがり、ホルモンの分泌も活発になって活動的になり、夜はその反対に、睡眠に適する生体リズが、太陽とともに活動し星とともに眠ってきた200万年と言われる人間の生活史の中で創られたものであり、短期間で変わるものでないこと、第二に、人間は社会的な生活を送らなければ、言い換えれば、夜勤者といえども日勤者と同じ時間帯にしなければならなことが多いことによるものです。