日本人の文化と気質、それにより形成された日本語の構造に第一の原因があると思います。 日本人は感情を強く外に出さない為、声を出すときに舌・唇・表情筋などを普段からあまり使わず、喉を奥まで開けて腹圧で話すことがないこと。本音を表に出さない押し殺した話し方だと、喉や下顎に力が入り声を響かせるのに適さず、こもった声になりがちなこと。 また、西洋の石造りの住居や教会などの音がよく響く環境と違い、高温多湿の日本では住居は木造で、障子やふすま、畳に土壁という、湿気を吸収する素材が使われており、それが音も吸収してしまうので声を響かすという文化が育たなかったこと。 そして日本語の構造そのものが、そんな日本人の気質や住居環境に適したものに形成されていった為、抑揚がなく、殆ど口先の動きだけで話せてしまうことが挙げられます。 日本人の発声は基本的に喉声です。浪曲、民謡、長唄、詩吟、能、狂言、歌舞伎に至るまで、西洋音楽では敬遠される喉を締めて歌う発声法で、これが日本人にとって普通の発声なのです。 なので日本人は、良い指導者の下、１対１で年月をかけてトレーニングしなければ喉声からの脱却は難しく、更に才能がなければ深みのある共鳴豊かな"通る声"が出せないと言われています。とはいえ現代の日本人は西洋音楽が大好きですので、プロの歌手は日本人特有の発声をどうにかしなければいけないのですが、殆どの歌手がどうにもしていないのが現状です。 その理由の一つは、日本人にとって喉を開いて腹部で息を制御することが難しいことです。横隔膜とその周辺の筋肉(腹斜筋、臀筋、腹筋、背筋、骨盤周辺筋等)により呼気の出力を自在にコントロールできる声のことを「支えるのある声」などと言いますが、下記リンクの専門家も指摘するように、日本人のポピュラー歌手の殆どは「横隔膜で支える」という概念を持ち合わせていない、もしくはその技術がなく"支え"が弱いことが挙げられます。 http://blog.livedoor.jp/promessa/archives/51552927.html http://classic.music.coocan.jp/vocal/hasseihou.htm 結果としてフレーズを一本の息の流れとして歌いきれず、音と音が綺麗に繋がっていません。多くの歌手はやたら節を回す"うなる"ような歌い方で息の仕切り直しをしたり、１音～数音ごとに息を吐き直して旋律の流れをぶつ切りにしているのです。これが幼稚な歌い方に聞こえる一つの要因です。 更に長音や高音では常に息が不足し、喉頭や胸郭での閉鎖が起きている。つまり音の出しづらい箇所に連動して、本来リラックスすべき上半身を力ませたり、眉間にしわを寄せ苦しそうに、喉に頼った力任せの声を出してしまっています。 高音を細く痩せた声や裏声で歌う歌手があまりに多いですね。実声と裏声は別物としてパフォーマンス的な個所でのみ裏声で魅せるならいいのですが、日本人歌手は苦し紛れに裏声を使っているだけです。 また抑揚をしっかりつけられない歌手も多いです。アタック音だけボリュームの大きい叩きつけるような歌い方は抑揚があるとは言いません。いずれも息のコントロールが正しくできればこんなことにはならないのですが…。 日本人の歌声が西洋のそれと乖離しているもう一つの理由は、歌い手・聞き手の耳にあります。西洋と東洋では感性の違いがあり、その中でも日本人はとりわけ特殊な感性を持っている民族なのだそうです。西洋の専門家が指摘するには、日本人は一般的に力みのない自然な声より、喉を硬くしたり、押さえたり、つめたりして“作った声”に美意識を持っているということです。 胸郭で押さえつけたり、喉を絞ったり力を入れたりして出した声というのは、響きの悪いこもった音、ノイズの多い割れた音になるのですが、日本人はそれを不快に感じるどころか、むしろ力で出した音でないと物足りなく感じるくらい独特な感性を持っているのだそうです。古典芸能だけを指しているのではありません。声楽の世界でも言われていることなのです。 西洋音楽の専門教育を受けてる声楽家ですら日本人は喉に無駄な力みのある発声をしてしまうのですから、基礎が脆弱なポピュラー歌手はなおのことです。 喉を開いた自然な声でなく"作った声"の歌手が多い証拠として、モノマネタレントがよく歌手の歌マネをしてますよね。一人で何人もの歌手の歌マネができてしまうというのは日本特有なのです。喉で作った声ほど真似しやすいんですよ。そしてモノマネしやすい歌手ほど日本人には受けがいいのです。 西洋人には理解できないそういった歌声でも、日本人は"いい声"と捉える感性なのですから、もうそれでいいじゃないかと言えなくもないのですが、邦楽に慣れる前に正統な西洋音楽に馴染んでしまった人の耳には、日本人歌手の多くが、耳障りな声、薄っぺらい声、息苦しいこもった歌声、音が散らかった歌声に聞こえるのは仕方のないことです。