この件、「戦犯として訴えられて有罪になった」として、かなり有名な話ですが、うさんくさい話でもあります。
あちこちで取り上げられているエピソードを拾い読むと、
・刑の重さが懲役5年~無期懲役~死刑とバラバラ
・舞台となった捕虜収容所の場所もバラバラ
・証拠として確実なソースが提示されない
という感じで、典型的な都市伝説の特徴が出ています。
で、有名なソースを並べてみます。
・「貝になった男 直江津捕虜収容所事件」
捕虜が「木の根を食べさせられた」と訴えて、8名が絞首刑になったという話だが、どうやら裁判の本題は一般的な捕虜虐待だったらしい。1年で300人中50人が死亡という深刻な捕虜虐待なので、ごぼうの一件は(あったとしても)些細な話としか思えない。
・「秘録東京裁判」
「ごぼう(牛蒡)をオックス・テールと英語で説明したので、牛の尾を食べさせられたと捕虜が訴えた」という話。元ネタがごぼうなのは同じだが、理由が木の根ではないし、オックス・テールは西洋では普通の食べ物なので、どこかおかしい。
・昭和27年の参議院法務委員会での法務省保護局長の答弁
「貴重品だったごぼうを食べさせたら、木の根を食べさせられたとして訴えられ、懲役5年」という答弁。政府側答弁なので嘘は言っていないはず。でも、捕虜収容所の場所など具体的な情報は一切なし。
・漫画「はだしのゲン」、映画「私は貝になりたい」
この中で信頼性の高そうなのは国会答弁です。
でも、この国会答弁をよく読むと、趣旨は次のようになります。
「我々は戦犯の減刑をアメリカに働きかけている。その一つとしてアメリカ政府要人に、雑談の中でごぼうの件を話した。アメリカの要人は、そういう事があるなら赦免も検討しなければならないだろうなあ、と言った」
「雑談の中で」というのがポイントで、責任のある話じゃないんですね。
実際、答弁が確かなら、そのアメリカ政府要人は「そういう裁判があったなら、赦免を検討する」と明言したとしていますが、「ごぼうの件」で赦免が検討された事実はありません。
そもそも戦犯裁判の記録の中に、ごぼうが原因で有罪判決が下されたという記録はないんです。
以上から、世間に出回っているエピソード(ごぼうが原因で戦犯)は都市伝説の一種と考えます。
ただし、実際に捕虜収容所でごぼうを食べさせた事実はあるという事なので、それを木の根と勘違いした捕虜が居た可能性はあると思います。
愚痴くらい言ったかもしれません。
おそらく、そういう小さな話に尾ひれがつき、それと一般的な捕虜虐待(ごぼう等とは比較にならない深刻な問題)の戦犯裁判がごちゃ混ぜになって、今のエピソードになったんだろうと思います。