ある基底で収束している状態といってもそれが別の基底では重ね合わせであることは往々にして起こるので、「重ね合わせ=波」「収束=粒子」というのは違います。
まず現代物理では我々が普段見ている景色は物理量の観測結果に過ぎず、実体は「状態汎関数」と呼ばれるものである、という立場を取ります。
ここで、物理量は数学的には「作用素」と呼ばれるもので、ある状態汎関数を別の状態汎関数に変換する働きをします。
また状態汎関数の全体の集合は複素ベクトル空間を作ります。
これらはどちらも実数どころか通常の意味の数ではありません。
どのような物理量Xについても、それをある状態汎関数ωについて測った場合
Xω=cω
(ただし、cは複素数)
というように、実質的にXを測ることは複素数cを測ることに等しいということになる状態ωがあります。
このようなωはXの固有状態と呼ばれます。このときのcは固有値と呼ばれ、物理量Xの状態ωに対する観測値になります。
基本的に物理量の固有状態は無数に存在します。
ある状態φが物理量Xの固有状態ではない場合を考えます。
状態φについて物理量Xを観測したとき、その観測値がcになる確率は、固有値がcである固有状態ωと、φの間の内積を計算することによって得られます。
Xの全ての固有状態のリスト
{ω_1,ω_2,......}
を考えましょう。
任意の状態φはこのリストに含まれる固有状態の線型結合になっています。つまりc_1,c_2,......を固有値とする固有状態ω_1,ω_2,......があって、
φ=a_1 ω_1 + a_2 ω_2 +......
となります。ただしここで数列a_nはそれぞれの固有状態が状態φにどのくらい含まれているかを表す割合に対応する複素数です。
ここから状態φの物理量Xの観測値の確率分布が得られます。
この一つの状態φが無数の固有状態の重み付き足し算になっているという事実を指して「重ね合わせ」と呼びます。
一方収束しているとは、状態φが固有状態であるという意味です。
例えばφという状態をXという物理量で測ると作用素の性質上、Xφは元のφとは別物です。
具体的には任意の状態φは観測後には、観測値に対応する固有状態ωに変換されます。
この現象を指して収束と呼びます。
光の場合の例として、物理量Xを具体的に「偏光の角度」としておきます。
この場合、物理量Xに対応する観測装置は偏光板です。
光子一つの偏光状態を偏光板で測るとします。
例えば偏光板を水平偏光のみを通すように配置したところに水平方向に偏光している光子を入射させると素通りします。
一方、鉛直方向に偏光している光子を入射すると光子は全く通り抜けることができません。
これは、この二つの状態が水平方向偏光板の固有状態であり、それぞれの割合が1と0であるからです。
なので例えば水平方向に偏光している光子は、水平方向偏光板にとって最初から収束しています。
ところが偏光板を斜め45度にすると、50%の確率で水平方向の偏光を持つ光子は弾かれるようになります。
これは斜め45度の偏光板にとっては水平方向の偏光を持つ光子は斜め45度偏光と斜め-45度偏光の重ね合わせ状態だからです。
そして通り抜けた後の光子は45度偏光の固有状態になっていて、弾き飛ばされた光子は-45度偏光の固有状態になっていますので、入ってきた重ね合わせ状態は、出て行くときには固有状態に収束しているわけです。
なお光子とは粒子数演算子と呼ばれる物理量の固有状態のことで、この状態は電子と弾性衝突できたり、運動量やエネルギーを運ぶという粒子性を持ちますが、実は状態を関数として書けばただの平面波です。
ちなみに状態を関数として書くとは、与えられた状態を位置演算子の固有状態で先程のように展開するという意味です。