取り急ぎ、話の筋だけでいいね?
兼房という人は、長年、和歌が好きだったけれど、あまり上手じゃなかった。
そこで、「歌聖」と敬われる柿本人麻呂を、いつも心の中で念じていた。
ある夜の夢の中に、
梅の花が雪のように散っていい匂いがしているところへ、
普通とちょっと変わった烏帽子をかぶって、神と筆を持って、何か考えている老人が出てきた。
「この人誰だろう?」と思っていると、その老人は、
「長年、あんたが、私のことを心に思い続けてくださっている。
その気持ちが深いので、こうして姿をお見せしたのですよ」
と言って、さっと消えた。
こんな夢を見てから、兼房は、この老人の姿を、画家に語って、
ああでもないこうでもないと何回も描かせて、似ている絵を宝にして、
いつも拝んでいたら、その効果か、以前よりもましな歌が詠めた。
歌聖柿本人麻呂が、夢に出てきて、日頃の尊敬に応えてくれた、という話。