どうやら興味の方向が私と似ているようですね。別に狙い撃ちしてるわけじゃないんですが、面白そうな質問だなと思って開くと、oninorobeeruさんのご質問でして…(苦笑)
さて、ご質問に対する答えですが、もちろんロシア語も古くは呼格を持っていました。
例えば、プーシキン再話による民話「金色の魚」を読むと
Что тебе надобно, старче? (何をお望みですか、おじいさん?)
というフレーズが繰り返し出てきますが、この"старче"は"старик"の呼格です。
他にもжено!(妻よ!) とか отче!(父よ!) とか коню!(馬よ!) とか、語尾の母音は色々ですが、その規則性は他のスラヴ系言語とほぼ同じだったようです。おそらく呼格の形は、スラヴ語が方言程度のバリエーションを持つ一つの言語だった時代から、あまり変わっていないのでしょう。
しかしロシア語においては、11世紀ごろにはすでに、呼格と主格の混同が始まります(有名なオストロミール福音書に事例が見られるそうです)。つまり人に呼びかける場合も主格を使うようになっていくのですが、その後もしばらくの間は、目上の人に呼びかける場合の特別な形として呼格が生き残っていましたが、16世紀中ごろには、ほぼ話し言葉からは呼格が消滅したようです。
以後、呼格は文語として、主に教会における祈りの言葉に使われるだけの形式になっていきます。
それでも1918年の改正までは、ロシア語でも文法上は呼格を第七の格と見做していたのですが、その頃にはもはや呼格を正しく使える人がほとんどいなくなっていたこともあり、正書法の改正にともなって、呼格は正式な文法から削られてしまったということです。
そういうわけで、現代ロシア語の正式文法には呼格がありません。それでも
Боже!(神よ!)
Господи!(主よ!)
などの感嘆詞や祈りの言葉から派生した慣用句などには、(形骸化しているとはいえ)昔ながらの呼格が残っています。