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『殉職した猫』

kai********さん

2018/8/623:18:20

『殉職した猫』

どうですか?

それは、ある田舎街で起こった悲劇である。
明治時代の物語。
裕史は駐在所に勤務する若く勇敢な巡査だ。小百合はそんな彼を愛し、駐在所で彼の職務を陰ひなたに支えた。小百合は八つ年上の女房だった。その時代には珍しいことだ。仲睦まじい夫婦は子宝に恵まれず、タマという雄の虎猫を我が子の様に可愛がっていた。
タマは大人しく、普段は遠目から夫婦を眺め一日中寝ているだけだった。

その日、裕史は駐在所で近所の老婆の世間話につきあっていた。平和な田舎の駐在所ではよくある光景だ。裕史と老婆が対面する机の上にはタマが寝そべり、老婆がタマを撫でていた。年寄りの癒しはタマの唯一の仕事であった。すると「リーン!」と電話のベルが鳴った。本署からの招集だ。
後輩の当番員が叫んだ。
「先輩!大変なことが起きました。直ぐ署に来てください」
裕史は、老婆を小百合に任せて本署に向かった。小百合は不吉を予感し、タマは署に向かう裕史の後姿をじっと見ていた。

署に着くと、裕史の同期や後輩達が皆招集され、署長が悲壮な面持ちで彼らの前に立っていた。裕史が慌てて列に加わると署長が言った。
「今回は死を覚悟しなくてはならない。だから君達に命令はできない」
裕史は署長に尋ねた。
「すみません。何があったのですか?」
「隣村でコレラが発生したのだ。村人に移動を禁じたが、このままでは死を待つだけだ。最悪暴動の怖れもある。ワクチンは極僅かしかないが、誰かが村人を説得し、それを全て接種しなければならない。しかし未来のある君達が無理しなくても良い」
裕史の後輩が言った。
「では誰が行くのですか?」
署長は言った。
「この私が行く」
裕史の同期が叫んだ。
「馬鹿な!署長にも子供や孫がいるじゃないですか。それに署長が不在で誰が指揮するんですか?」
裕史の後輩がまた言った。
「自分に行かせて下さい。体力には自信があります。柔道で鍛えたこの体、コレラなんかに絶対負けません」
裕史は、同期と後輩達に言った。
「お前らみんな子供がいるじゃないか。俺には年上女房と猫がいるだけさ。俺が行くよ。俺だって体力には自信があるんだ。大丈夫。どうってことはない。署長、自分に行かせて下さい。お願いします」

裕史は戻ると小百合にわびた。
「すまん。許してくれ」
小百合は言った。
「あなたの妻になったときから覚悟しておりました。こんな日が来ることを。あたしの事は気になさらず、職務を果たして下さい」
毅然とした態度で小百合はそう言ったのだ。しかし裕史が小百合を抱きしめると、彼女は震えていた。
タマはそんな二人をじっと見つめていた。

裕史が村に入ると、村人は鎌や鍬を手にして詰め寄った。
「おら達を殺しに来ただか?村を焼きに来たんだな。けえれ!」
村人は常軌を逸しワクチンを毒薬と疑った。
するとそこにタマが現れ、お腹を見せて寝転がったのだ。一瞬緊迫した空気がほぐれた。
「タマ!皆さん落ち着いて下さい。この猫は私の愛猫です。人を殺しに行く奴が、わざわざ飼い猫を連れて行きますか?注射を打ちに来ただけですよ」
裕史は手持ちのワクチンを全て接種し終えると、タマと共に村を後にした。

しかし裕史は帰途の途中にある空き家に入り己の死を覚悟した。彼は自分のワクチンを、村の子供に使ってしまったのだ。やがて悪寒と高熱が彼を襲った。裕史は身をすり寄せるタマの首輪に、手紙の入った御守り袋を括り付けると言った。
「お前は帰りなさい。この手紙を頼んだよ」

普段大人しいタマが小百合の脚に激しく絡み着物に爪を立てた。小百合は落ち着きのないその様子に気づき、御守り袋の中の手紙を読んだ。
「僕は疫病に感染し、もう直ぐ死ぬだろう。家屋と共に僕を焼くよう署に要請してくれ。小百合。すまない」

署員が裕史が横たわる空き家を遠巻きに囲み署長が叫んだ。
「おーい!大丈夫か!返事をしてくれ」
裕史の後輩達も叫んだ。
「先輩!大丈夫ですか!」
「署長!中に入って見てきます」
すると小百合がきっぱりと言った。
「やめて下さい。主人は、あなたを道連れにすれば悲しみます。悔いなく死なせてあげて下さい」
彼女はそう言うと、制止を振り切り、彼の元に走ったのだ。

小百合は瀕死の裕史に添い寝し、言った。
「どこまでも御一緒させて頂きます。あなたの妻になったときに、そう決めたのです」
蚊の鳴くような声で裕史は言った。
「ありがとう。僕は幸せだ」
「私たち、子供がいなくて良かったわね」
「そうだね…」
小百合が裕史の唇に唇を重ねると、彼は少し涙をこぼし、静かに目を閉じた。小百合は彼の亡骸を抱きしめ、ひとしきり泣くと、懐からマッチを出し、藁に火をつけたのだ。
火が静まり、裕史の後輩達が焼け跡を捜索すると、川の字に横たわる遺体が発見された。それは幸薄き夫婦と一匹の猫の亡骸だった。

殉職者を祀る慰霊碑には、こう刻まれた。
「英霊の魂ここにねむる。警部補 田原裕史
妻 小百合、猫のタマ」

終わり

補足愛知県の田原町に伝わる実話をモチーフしています。
亡くなられた御夫婦のご冥福をお祈りします。

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oya********さん

2018/8/623:25:52

貝になりたい

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ベストアンサー以外の回答

1〜1件/1件中

tot********さん

2018/8/623:38:25

元の実話が感動的なのに、そこに無理やり「猫」をいれる意味が分かんないんですが・・

それなら登場人物を全部 猫に置き換えて名前なども覚えやすい児童文学にしたほうがいいんじゃないすか?

返信を取り消しますが
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