国際連盟総会でほぼ満場一致で採択された報告書の方は、国立公文書館アジア歴史資料センターで見られます。(ご自身で読まれるなら、↓にレファレンスコードB10070153400を入力してリンクを辿って下さい。) https://www.jacar.archives.go.jp/aj/meta/reference リットン調査団報告書は同じく国立公文書館アジア歴史資料センターで、レファレンスコードで、 B02030460700 B02030460800 B02030460900 B02030461000 B02030461100 B02030461200 B02030461300 でも見られますが、国立国会図書館デジタルコレクションの↓の『リットン報告書』(国際聯盟支那調査委員会編・中央公論社・1932年11月)でも読めます。(訳文が完全に一致しているかまでは私は知りませんが…) http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1445164 ＞リットン調査団が「事変前の状態に戻ることは現実的でない」とした上で、「日本の満州国における特殊権益」を認めたということは、昭和6年9月18日の柳条湖事件以前に日本が満州に持っていた権益以外の権益を追加で認めたということになると思いますが、それは具体的にはどんなものであったのでしょうか？ 「事変前の状態に戻ることは現実的でない」というのがリットン調査団報告書のどの部分の事を仰っているのか、私には確認できませんが、例えば、国立国会図書館の方で言えば、コマ数で84(元の冊子のページ数ではP156)の、 単なる原状回復が問題の解決たり得ざることは如上吾人の述べたる所に依り明かなるべし。蓋し本紛争が去る九月以前に於ける状態より発生せるに鑑み同状態の回復は紛糾を繰返す結果を招来すべく斯くの如きは全問題を単に理論的に取扱い現実の状勢を無視するものなり。 といったあたりではないのですかね。この文章は、「単に“元に戻す”だけだと、それは実際に紛争が起きた状況に戻す事に他ならないので、無意味」と言っているだけですよ。 コマ数で言えば85～86(元の冊子のページ数ではP159～160)に「満足なる解決の条件」が挙げられていますが、権益については (四)満洲に於ける日本の利益の承認 満州に於ける日本の権益は無視するを得ざる事実にして如何なる解決方法の右を承認し且日本と満洲との歴史的関係を考慮に入れさせるものは満足なるものに非るべし と書いてあるだけです。 第十章「理事会に対する考察及提議」の中に鉄道に関する部分もありますが、「将来に於ける軋轢を避けんとせば過去に於ける競争制度を終息せしめ之に代うるに諸線に於ける貨客運賃に関する共通の了解を以てするの規程を本条約の中に設くること必要なり」とか言った、競争関係を緩和する為の方策に過ぎません。 「元に戻すのは無意味」だから新しい方策として、「満足なる解決の条件」の中に、「日支両国間に於ける新条約関係の成立」、「将来に於ける紛争解決に対する有効なる規定」、「内部的秩序外部的侵略に対する保障」(憲兵隊を組織し、それ以外の“一切の武装隊”を撤退させる)、等々といった項目が挙げられているのだと思いますが… リットン調査団の報告書の前文に目を通したのはかなり前なので、私の記憶が消えた可能性もゼロじゃないですが、「事変前の状態に戻ることは現実的でない」という認識から出てきた案は上記の様なもの、と私は理解しましたし、もう一度関係しそうな部分を読んでも、その理解は変わりません。自治政府が“日本人が割合を占むる”外国人顧問の採用(コマ数では88、ページ数ではP165)とかより詳細な提案は他にもありますが、「追加の権益」みたいなものがあった、という記憶は全くないです。 そもそも、依って立つ大原則の一つに「紛争は平和的に解決すべし」というパリ条約(不戦条約)第二条があるのに、「戦争したら日本が追加権益を得た」というのは、辻褄が合わな過ぎじゃないですかね。中国の主権尊重を謳う九カ国条約第一条も「解決の為の基本原則」としながら、満洲の自治・外国人顧問の採用、特別憲兵隊以外の「一切の武装隊の撤収」(中国政府も軍隊を置けなくなる)とかを勝手に言っているのは、かなり微妙というか反則と言えない事もないですが、「追加権益」は、いくらなんでもあり得んのではないですかね… もし、疑問があれば、ご自身で読まれる事をお勧めします。 ＞昭和8年2月24日の国際連盟総会での動議における「日本軍が満州鉄道の鉄道地区まで撤退すべきである」という内容は、昭和6年9月18日の柳条湖事件以前の状態に戻るということになると思いますが、そういう理解でよいのでしょうか？ 既にご紹介した総会で採択された報告書のアジ歴でのファイルでは41/43に書いてあります。その通りの理解で良いと思いますよ。そして、リットン調査団報告書は(因みに総会で採択された方の報告書も)、既にご紹介した通り、「新たに組織される憲兵隊が満洲での唯一の武装隊になるべき」と言っているのですから、別に矛盾はしていません。勿論、唯一といっても、関東軍が満鉄附属地からの撤収せよ、といったら、それは日本の既得権益の一部を否定する事になるので、そういう意味ではありません。 敢えて言えば、「満鉄附属地に即時撤退すべし」ではないにせよ、「先走り気味」というぐらいでしょうか… (関東州は租借地だからそもそも話題の外として)満鉄附属地以外で日本軍の駐留権を認めるような提案を国際連盟がしたら、これも、そもそもの大原則である「武力によって紛争を解決しない」に全く矛盾してしまいますよね。戦争した結果、駐留権を獲得してしまうのですから… これももし疑問があれば、ご自身で読まれる事をお勧めしますね…