表向きは念頭の一般教書演説をベースに議員が法案を作成・立案するとなりますが、もちろんこれはうわべだけの話です。実際は、
・定型的な法案、例えば予算なら行政管理予算局(OMB)が草案を作成する。
・大企業の活動に関わる法案なら、これら企業と関係を持つロビイストが法案の原案を作成して議会に”札束の力”で法律案をねじ込む。
・外交関連、経済関連などであれば外務省ももちろん中心メンバーではあるが、その他にも大口のシンクタンクが法案の原案(提案書)を作成する。
例えば中国関連であればブルッキングス研究所、共和党お抱えのハドソン研究所、日本の総務省の役割を果たすピュー・リサーチ・センターなどがある。
日本では教育なら文部省、大規模交通システムなら国土交通省などが政策の立案において大きな役割を持つが、アメリカではOMBや外務省などいつくかの例外を除き、国の役所は、国や連邦制度の法案と齟齬がないか法的チェックを行うなど限定的な権限・役割しかもたないことが多い。
変わってアメリカ国内にいつくもあるシンクタンクが原案を作成することが多い。アメリカでは州毎に法律が異なることがあるので、国(日本のように霞が関役所)の命令一発でアメリカ全国を統制するということは(憲法、通貨、軍事などいくつかの例外を除けば)難しい。
・アメリカでは国家公務員は終身雇用ではないので、ロビイストやシンクタンク、大学教授などが大統領選挙の後などに行政のスタッフに就任して政策をとりまとめることが多い(そして彼らは次の大統領選挙が終わるとふたたびロビイストやシンクタンク、大学教授に舞い戻る。)
・財務に関する法案なら日本だと財務省、金融庁がその元締めとなるが、アメリカでは財務長官がその責務を負う。ただしもう20年以上財務長官はニューヨーク・ウォール街の大物投資銀行家が就任することが多いので、実際は彼らの意向が法案にも強く反映される。
ただし通貨の発行、金融政策のとりまとめ、金利策定などは内閣や議会とは独立したFRBが行う。
・日本の旧)厚生省にあたる組織は内閣にはなく、こちらもシンクタンクのカイザー・ファウンデーションが統計報告や提言を行うことが多い。
・共和党が大反対することが予想される法案なら、行政のスタッフを影のリーダーにして議員を巻き込みながら法案作成を推進することもある。代表的なのがオバマケアで、オバマ大統領は表立って法案作成に関われないため、当時の大統領首席補佐官だったラーム・エマニュエルを影のプロジェクト・リーダーに、議会の根回し担当を副大統領のバイデンが行うなどしていた。
・法案の通過にまとまった予算が必要ないものは、大統領令の直轄で(行政の管轄だけで)法案を作成・署名できる。ただしトランプの出す大統領令はあまりにも唐突でむちゃくちゃなものが多い(笑)。