この本のことを知ったのは「のりこえねっと」のサイトだったと思う(著者の深沢潮さんが4月にのりこえねっとTVに出演していた)。
巻頭の「金江(かなえ)のおばさん」は女による女のためのR-18文学賞で、第11回大賞をとった。R-18文学賞の受賞作はこれまでもちょこちょこと読んできて、その賞タイトルや過去の受賞作の内容からエロ方面だと思っていたが、11回からやや方向転換したそうだ。
6つの収録作はどれも「在日社会」をめぐるこもごもの話で、連作になっている。在日どうしのお見合いをあっせんし、その謝礼や成功報酬、結婚式まわりの業者からのバックマージンで暮らしをたて、そして北へ渡り消息不明の長男への仕送りも続けている「金江のおばさん」の姿がどの作にも見え隠れする。
まず条件から入るという「お見合い」の場面をつうじて、ご縁があればと願う本人あるいは家族の希望や思惑がみえる。「気になる」ところは、人それぞれで、顔や見た目という人もあれば、職業や学歴が釣り合うとか合わないという人もあり、家族構成や長男か次男かが重要な人もいれば、東京に住む人でないといやだという娘もいるし、朝鮮のどこ出身かということをまず訊く親もいる。
占いの結果が悪かったから断ってくるのは方便なのかもしれないが、そういう断りの電話に、金江のおばさんはときに説得して、つぎつぎと見合いをセッティングし、相談に応じていく。「縁を繋ぐのは、タイミングとスピードが勝負だ」(p.15)と、おばさんは考えている。
おばさんの夫・鉄男は、なぜ私だけまわりの友達と違うんだろうと思ってしまうという在日の娘に、「在日の人間はみんな多かれ少なかれ、理不尽な思いといつも向き合って生きているんだよ。自分の生まれ落ちた環境と折り合いをつけて、うまく付き合っていくしかないんだよ」(p.30)と諭す。
『本格小説』の東太郎のモデルとなった大根田勝美さんの著書に寄せて、水村美苗が、「神は細部に宿る」は小説にもあてはまり、具体的な「細部」があればこそ、どこにでもありうるような話になるのだと書いている。そうした具体的な「細部」が、この『ハンサラン 愛する人びと』でも積み重ねられていると思った。
「在日」というくくりに入る家族にも、あたりまえだが、いろんな家がある。それは「日本人」というくくりで何でも説明できるわけではないのと同じだ。
友達や親戚のところの親と比べて(どうしてウチの親はこんなんなのか…)と悩んだり、きょうだいの上か下かで親の態度が違って腹が立ったり、言えないあれこれを抱えて友達と行き違ったり、どうせ分からないと思ってしまったり、合わない人の感覚のギャップについていけないと思ったり… そういうのは、在日でも日本人でもたぶんあるだろう(私にはある)。
もちろん、日本の社会のなかで「在日」として暮らす苦労や葛藤はそれとしてある。それでも、みんな各々「自分の生まれ落ちた環境と折り合いをつけていく」のだと思ったし、だからこそ、この連作小説は時に身につまされ、登場人物の誰かれに共感できるところもずいぶんあってお薦めします。