スズムシソウがナメクジ食害に遭いやすいのは御承知のことと思います。ほかのランは食害されなくてもスズムシソウだけやられることもありますね。よほどおいしそうな匂いでもするのか? 庭に普通の鉢植えのように置いているとしたら、ほぼ確実に食害されることでしょう。鉢を空中につりさげたり水盤においたりしてナメクジが来ないようにするくらいの配慮は、スズムシソウを管理するのであれば、最低限必要だと思います。
ナメクジにひとたび食害されると、どうもそこから病原菌が入るらしく、ほぼ確実に腐敗するように思います。また、ハダニ被害にあった場合、殺ダニ剤をかけてダニを駆除しても、葉は枯れていきます。湿度が低いとハダニがつきやすい。湿度を高めるとナメクジがつきやすい。どっちにしろ、虫害や病害を完全に防ぐのは不可能とさえいえるほどめんどうです。
だから、スズムシソウは「事実上」栽培不可能なのです。なかにはたかが5年程度個体維持しただけで、栽培できた、などと自慢している自称ベテランもいますが、スズムシソウの寿命は5年程度ではありません。最低でも10数年、おそらく数十年はあると思われます。その間に継続的に実生繁殖させてはじめて栽培できたといえるのです。スズムシソウを栽培できるというからには、交配して無菌播種ができる程度の技術と熱意を持っていることが最低限の条件でしょう。
栽培不可能なのに売られている。売られているのだから、栽培できると勘違いして買う人がいる。買う人がいるから売る。売っているスズムシソウのほとんどは山から取ってくる(無菌培養で増殖したものなどごくごく稀でしょう)。こういう悪循環で自生地からスズムシソウは消えていきます。
もっとも、スズムシソウの仲間は地生種も着生種も無菌播種して発芽させることはごく簡単だし、ビン内で移植していって成長させていくことも可能ですから、一生ビンから出さないで培養していけば個体維持は可能です。
※補足を拝見しました。
>植え替えのとき置きっぱなしにしてしまって
そのような人為的ミスはつきものです。私もさんざんやらかしてきました。人間はミスをするものです。そのミスが致命的になるランと、致命的にならないランがある。スズムシソウは前者なのです。エビネ類とかシュンラン類とかフウラン、セッコク類は後者です。昔から古典園芸植物として維持されてきたランは栽培可能なのです。そうでない多くのランは「事実上」栽培不可能なのです。クモキリソウ属で栽培可能といえるのは、コクラン、ユウコクラン、チケイランくらいのものでしょう。これらは勝手に実生が生えてくるほどで、複数のバルブがあるため、ナメクジになめられても、完全には腐敗しにくいからです。
私は人為的ミスが少しでも減るようにするため、ビンの中でのみ、スズムシソウ類を維持しています。こんな面倒なことしたくないのですが、乱獲以上に憎むべき、むやみ自然破壊工事で自生地が完全に破壊されたところのものなので、仕方なく維持を続けています。
さて、おそらく葉が枯れたのは、薬のせいではないと思います。すでに、ナメクジになめられてしまっているからだと思います。無事のように見えるでしょうが、ルーペなどでよくバルブを観察してみてください。なめられた傷がついていると思います。そうなると、先にも書いたようにほぼ確実に枯れます。しばらくすれば腐敗が進んでくると思います。おそらく、救う手だてはありません。
ナメクジ除けをおいたところで、ナメクジを完全に忌避することはできません。つりさげたり、水盤においたりしたところでもそれは同様です。いつのまにか、ナメクジは入ってきます。よくいわれることですが「ナメクジは空を飛ぶ」それは真実だと思うほどです。
自ら無菌播種による増殖をせずに、盗掘由来品ばかり購入するすべてのマニアに言いたいのですが、スズムシソウ類の栽培は「事実上」不可能、ということを達観し、栽培から手を引く必要があると思います。そうでないと、乱獲による自生地減少が止まりません。真の意味でランを愛するマニアが増えてほしいです。