法律上、犬は器物ですので、器物損壊について法的債務（刑事上の責任と損害賠償）が発生する可能性があります。飼い主の精神的な損害を慰藉するための慰謝料は発生しません。 まず、刑事上の責任ですが、過失による器物損壊罪となりますが、リードが３ｍ以上あったなど、所有者（飼い主）にも一定の過失責任が認められ、質問者は徐行を守っていたと思われるので、器物損壊罪に問われる可能性は低いように思われます。 次に民法上の法的責任ですが、器物損壊の場合、最大限、その器物の時価（減価償却や経年劣化による資産価値の減少分を除いた価値）の範囲において法的債務が発生する可能性があります。 しかし、犬の場合の時価の算出は難しいですね。ショップでは子犬の時は10万円以上しても、1歳を過ぎれば3万円前後になるし、たとえば当該の被害に遭った犬が5歳だとすれば、ショップでは値がつかないでしょう。したがって、年齢によっては犬の時価（あくまでも法的な時価という意味です）は一「無価値」と評価される可能性があります。法律上の損害賠償は発生しない、ということです。 しかし、ゼロでは質問者も気持ちが済まないでしょう。「お詫び」とか「お見舞い」とか、名目は何でもよいですが、５万円程度、包めばどうでしょうか。里子の譲渡金額（実費除く）が大体それくらいですので、目安になります（譲渡金額は当事者間の話し合いで行われる私的行為なので、時価の指標にはなり得ません。あくまでも一つの目安として）。法的債務は質問者に発生しない可能性が高いのですが、相手の飼い主はひどく傷つき、自己反省を深くしていると思われるので、なるべく平身低頭の姿勢で臨むとよいと思います。こうした状況で尊大な態度に出たり連絡を絶つと、先方も気分を害するので、感情のもつれから無用なトラブルに発展しかねません。 ここで回答されている他の飼い主の方に念のため申し上げたいのですが、このように、犬が轢かれても何ら補償はないのが普通です。犬に車道側や車に近い方の場所を歩かせないなど、散歩時には注意が必要です。まして車も通る狭い道路で長いリード（おそらく伸縮リードでしょう）は、いかに愛犬を危険に晒すことになるのか、自覚されるべきです。また、犬を飼育しているのなら、この程度の法律上の問題について「わかりません」では済みませんので、ご自分でも普段から勉強しておいてください。 ＜追加＞ 当方の説明で誤解を招きかねない部分があったので、はしょらないで説明します。 「過失による器物損壊罪」とありますが、「仮に飼い主から過失による器物損壊罪で告発されても」と修正します。 告発権は基本的人権の一部で、誰もが行使できます。警察は告発を受けて、捜査する義務があります。しかし、回答したように、捜査をしても、飼い主側にも過失があるので、嫌疑不十分もしくは嫌疑なしの結果でしょう。 また、当方の回答は「賠償責任が発生するのが当然」のような書き方をしていますが、これは「賠償責任が発生した場合」を想定しているだけで、「当然」とは判断していません。質問文の状況説明では、発生するかどうかは判断できません。 犬を轢いても何の罪にも問われないとする回答がありますが、これを鵜呑みにするのは非常に危険です。コーナーにミラーがあり質問者が犬（器物）の存在を目視し得たのに轢いたなど、重過失が認められる場合は器物損壊罪や道交法違反に問えます。 また、同じ回答者から「逆に障害物を仕掛けられた被害者」とのトンチンカンな回答がありますが、「仕掛けられた」というのは、飼い主側の故意や重過失が認められる限りにおいてのことであり、質問の事例では故意・重過失が認められないので、「仕掛けられた」というのは明らかな誤答です。 私は、今回のことで質問者には法的債務は発生しないが、穏便に済ませるため、お見舞金などの金銭を支払ってしまってはどうでしょうか、と申し上げています。どちらかを贔屓する意図はありません。もちろん、法的債務はないのだから、一切の金銭支払いを拒否する、という頑なな態度を貫くのも質問者の自由です。 また、同じ回答者で、「弁護士に依頼させるよう仕向けろ」といった内容の提案がされていますが、私が相手側弁護士なら、ダメ元で内容証明で数十万円請求したり、飼い主の気持ちが済むなら本人訴訟で低額訴訟を提起するようアドバイスしますね。相手側弁護士が依頼者（飼い主）を説得してくれる、という甘い期待を持つのは非常にナイーブというか、危険です。法律相談ならそうした説得はあり得ますが、法律相談と弁護士に依頼することは、まったく別物です。依頼された弁護士というものは、依頼者の要求がかなうよう、あれこれと合法の術策を練るものです。弁護士は大岡越前ではなく、依頼者の利益になるように行動するものです。