「話し」と「話」
質問者は「名詞と動詞連用形」の話はご存じのようなので、そのあたりは後ろに回します。
これは微妙な例ですね。
こういう問題は、余計な要素を抜くとはっきりすることが多い気がします。しかし、この場合は「ろくろく」を外して下記の形にしても、どちらにもとれそうです。
話しもせずに帰って行った
たとえば、「食べもせずに帰って行った」なら、「食べ」は動詞でしょう。「食べ」という名詞はほとんど使いませんから。でも「食事もせずに帰って行った」にもできるから「食べ」は名詞だ、という考え方できなくはなような……。
↑の場合はどちらもありそうです。どちらかというと「話」(名詞の解釈)にするほうがいいかな、という気がします。このテの文を目にすると「話し」は誤用だと主張する人がいそうなので。
当方が以前、微妙な例として思いついたのは下記です。
================引用開始
【20111014追記】
妙な例を思いついてしまった。
子供が母親にねだる。
「ねぇ、なんかおはなしして……」
これはたぶん「お話をして」の「を」が落ちた形だろう。そう考えるなら「お話して」になる。
女性が恋人にねだる。
「ねぇ、なんかはなしして……」
これも同様だろう。
これを逆に考える。
「ねぇ、なんか話して……」の「話」は「はなし」か「はな」か?
================引用終了
以下は蛇足です。
詳しくは以前書いた下記をご覧ください。
URLが記載できなくなっているので、タイトルで検索するか冒頭に「http」をつけてください。
突然ですが問題です【日本語編64】──話 話し 隣 隣り【解答?編】
://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-2105.html
以下は一部の抜粋(重言)。
通常の仕事モードだと、送り仮名や漢字の使い分けに関して辞書は信用していない。辞書によってブレが大きすぎて、何を信用していいのかわからない。 もっぱら頼りにするのは『朝日新聞の用語の手引き』。ただし、送り仮名に関してはわからないことが多い。
ちょっと送り仮名のページを確認してみた。朝日新聞は「送り仮名の付け方」の本則に準拠し、「許容」をとっていない。まあそうだろう。「正誤」を重視する辞書と違い、新聞は誰にでもわかりやすい「基準」であることを重視している。
今回の問題に関する『朝日新聞の用語の手引き』の記述。
1) (はなし)が合う→話が合う
2) (はなし)合う →話し合う
3) (となり)の家 →隣の家
4) (となり)合う →隣り合う
5) (となり)合わせ→隣り合わせ
(略)
↑の通則4に出てくる「活用のある語から転じた名詞」くらいの言い方が無難だろう。
通則4は以下のものをあげている。
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例外 次の語は,送り仮名を付けない。
謡 虞 趣 氷 印 頂 帯 畳
卸 煙 恋 志 次 隣 富 恥 話 光 舞
折 係 掛(かかり) 組 肥 並(なみ) 巻 割
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これはさほどむずかしくないだろう。「活用のある語から転じた名詞」なのか、元々名詞なのかは考えたくない。
このほかの例外として知られるのが伝統工芸品。「織」「染」「塗」「焼」「彫」などは送り仮名をつけない。ただまぎらわしいのは工法には送り仮名をつけることが多いこと。その結果、「素焼きの益子焼」「木彫りの鎌倉彫」のようなことが起きる(こんな例文はありえないけど)。
さらにメンドーなのは【許容】の部分。
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許容 読み間違えるおそれのない場合は,次の( )の中に示すように,送り仮名を省くことができる。
〔例〕 曇り(曇) 届け(届) 願い(願) 晴れ(晴)
当たり(当り) 代わり(代り) 向かい(向い)
狩り(狩) 答え(答) 問い(問) 祭り(祭) 群れ(群)
憩い(憩)
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「読み間違えるおそれのない場合」なんて、何を基準にするのだろう。個人の主観に頼る気か? これを認めはじめるとキリがなく、収拾がつかなくなる。
たいていの複合語は片っ端から送り仮名が不要になる。昔かかわった雑誌でそういうルールを採用していた。
打ち合わせる/打合わせ/打合せ日
みたいな法則で、校正の責任者以外誰も正確なことを理解していなかったorz。新聞が「許容」を認めないのは正しい態度だろう。
以上を踏まえてもう一度問題を見る。許容を認めるなら、以下のようになる(はず)。
1) (はなし)が合う→話が合う
2) (はなし)合う →話(し)合う
3) (となり)の家 →隣の家
4) (となり)合う →隣(り)合う
5) (となり)合わせ→隣(り)合(わ)せ