●φ-Tマップ
当量比(φ)と火炎温度(T)との組み合わせで,SOOTやNOxの発生領域が異なります。これを添付図に示します。このφ-Tマップは,東工大名誉教授(現:ものつくり大学長)の神本武征先生が1988年に発表されたものです。
ここで「φ(当量比)」とは,燃料と空気の混合比であり,ストイキオメトリック(理論混合比)を「1」とし,燃料比率が大きくなると,φが大きくなります。つまり濃い燃料比では,大きなφになります。
●NOx発生領域は?
NOxが発生するためには,下記の2つが必要な条件になります。
(1) 比較的φが低い(=空気が多い)
(2) 火炎温度 > 2000K(ケルビン)
●圧力条件は?
燃焼室内の温度は,燃焼エネルギと圧力(モータリング圧力+燃焼による圧力)により決まります。このため圧力が高いほど,燃焼温度が高くなるのが一般的です。しかし燃焼圧力が低くても,燃焼エネルギが大きければ,NOx発生温度に達します。このため圧力要件は,NOx発生にはあまり重要ではありません。
●SCRとは?
NOxを抑えるためには,下記2つの方法が有効です。
(1) 低温化
(2) 低酸素化
このうち,低酸素化は,NOx抑制には有効でも,SOOT(スス)が発生する要因になります。SOOT発生量が多い条件では,未燃分が多いわけですから,燃焼による発生エネルギが低くなり,出力(トルク),効率(燃費)が悪化します。このため「低酸素化」は使えません。こうして「低温化」が唯一の対策になります。
●低温化には?
燃焼させながら,2000K以下にするためには,下記2つの方法があります。
(1) 希薄燃焼化
(2) 比熱増大化
このうち希薄燃焼は,外燃機関ではたいへん有効ですが,内燃機関では,出力低下になり,エンジン体格が大型化するため,好ましい手法とは言えません。このため「比熱増大化」が使われます。
●どうやって比熱をあげるか?
燃焼室内のガスの比熱を高くすれば,同一熱量に対して,温度上昇は小さくなります。燃焼室内には,下記があります。
5以上の多原子分子 … 燃料の炭化水素 (一般に炭素数12以上)
2原子分子 … 酸素分子,窒素分子
一般に分子を構成する原子数が増えると比熱が増えるのですが,燃料を増やすと未燃分が増えてしまいます。このため,二酸化炭素(CO2)を増やすことにします。CO2は3原子分子であり,2原子分子より約28%大きな比熱をもっています。またCO2は,排ガスに多く含まれます。つまり燃焼室内に多くの排ガスを入れてやります。これをEGR(=Exhaust Gas Recirculation)といいます。
●EGRを増やすと?
EGR=0% : NOx=12g/kWh
EGR=20% : NOx=2g/kWh
EGR=40% : NOx<1g/kWh
というように,EGRを増やすと,NOx発生量を低減できます(圧縮比15~20の場合)。ところが,EGR率を増やしすぎると,局部的な低温個所をつくり,ここで未燃分が増えてしまいます。
●高過給の必要性は?
EGRにより,NOx低減は可能ですが,同時に未燃分が増えます。このため局部低温でも燃焼できるように,酸素濃度を上げることにします。つまり空気(新気)を無理矢理入れてやります。そうすると,燃料と酸素が接触する確率が増えます。こうして未燃分を減らせます。
●どうしてマツダのSKYACTIV-Dエンジンは2ステージターボなのか?
ディーゼルエンジンで,未燃分が多く発生するのは,加速時や高負荷時です。ディーゼルエンジンの出力調整は燃料噴射量でおこないますが,この時,燃料だけを増やすことになり,空気量が不足しがちになります。こうして空気量が少ないため,未燃分が増えて,黒煙になるのです。
このためマツダは,比較的小さなディーゼルエンジンにも,2ステージターボを採用しました。2ステージターボとは,小型と大型のターボチャージャを組み合わせた方式です。小径のターボを使うと,排気流量が小さい低回転域から過給でき,燃焼室内に多くの酸素を供給できます。
●SCRとは?
SCRは,尿素水を排ガス中に吹き込む技術です。吹き込まれた尿素はアンモニアになり,これがNOxを還元させます。このため欧州メーカとマツダはSCRを採用しています。なおマツダのSKYACTIV-Dエンジンでは,燃焼改善によりNOx発生量が少ないため,SCRを使っていません。
SCRでは,尿素水インジェクタや反応しなかったアンモニアを回収するアンモニア・スリップ触媒や尿素水タンクなどが必要になるため,数十万円かかります。アンモニア発生量にかかわらずコストがあまり変わらないため,大型車ほど有利です。
●日本メーカは?
日本メーカは,乗用車用にNOx吸蔵触媒を使っています。これは触媒表面にNOxを吸着させ,時々,燃料を増やして,HCやCOを多く発生させ,これらにより吸着したNOxを還元します。このため燃費が5%くらい悪化します。小型車ほど触媒量が少ないので,乗用車向きです。ただ触媒コストがやはり数十万円します。
簡単ですが,ご参考になれば幸いです。