今は個人で保護活動をしていますが、以前は大きなＮＰＯで犬猫保護活動のスタッフをしていました。 欧米の動物愛護が素晴しいというのは多くの愛護団体の常套句です。ドイツ・イギリスは殺処分ゼロというのも。 私は小学校からロンドンで過ごし大学の頃には動物関連のボランティアもしました。犬が大好きだったので。 そこで見た現実は、人間社会への適合を判断する壁の高さでした。イギリスでは、社会不適合（多くは攻撃性）を認められた犬は安楽死させられています。私の近所の犬が住人を怪我させた事から処分になった事もあります。 そのかわり、訓練により社会復帰が認められた犬は厳しい飼主審査の末譲渡になりますので漏れなく幸せになれる、という仕組みです。 ドイツやイギリスの動物愛護に関してもそうですが、いわゆる動物愛護先進国では、動物を管理する事に迷いがありません。日本の「無差別に死を否定する」動物愛護とは根本的に違っているので、帰国して保護活動を始めたときには酷く矛盾を感じました。 日本では出版されている書籍に関してさえ、ドイツやイギリスの殺処分ゼロの詳細な事情は書かれていません。これが何故だろうとずっと不思議でしたが、意図的に伏せていることが最近では理解できるようになりました。 殺処分はしてほしくありません。でも根本的な問題はそこではないので、欧米の動物愛護を見習うのであれば、徹底した命の管理を見習わなくてはならないのだと感じています。しかし日本人にはここまでシビアな割り切りは無理でしょう。 私が最初に所属した愛護団体では、「欧米では殺処分を行いません」と講演会で堂々と宣言しています。何も知らない善意の人々はそれを疑うことなく鵜呑みにしてしまう。そして、日本は遅れていると嘆いているのです。 彼らは「処分がいけないことだと知ってもらう為にはこれでいい」と言いましたが、真実を隠すことがいいこととは思えません。処分を無くすためにはどんな取り組みがあるのかという事情について、そして問題については一切語らないからです。 欧米には日本より処分数の多い国はいくらでもあります。私が結婚後住んだアメリカでは日本より多くの犬猫が処分されていますし、ペットを取り巻く環境が日本よりいいなんてとんでもないと思います。特例はハワイ州くらいです。 ドイツの極端な動物愛護は、第二次世界大戦下のホロコーストに大きく関連しているという考え方もあります。 ヒトラーは大量虐殺を行いながら、究極の愛犬家であった事が知られています。その件に関してはドイツの動物愛護法とヒトラーについての書籍を読むのも得るものがあると思います。 それからドイツについてですが・・・ 政党同士の利権争いの影で、動物愛護に関する事項が大きな鍵となっています。社会民主党とグリーンパーティーの存在が医療研究に大きな影響を及ぼし研究者の国外流出の問題を抱えていたりといい事ばかりではありません。 実験反対を唱えるのもいいでしょう。しかし今現在人及び愛玩動物が支えられている技術も薬物も、生体実験の恩恵であることを無視してはいけないと思います。 人の生活自体が何かの犠牲の上に成り立っていることが分かっていれば、一方向から処分や実験を反対する事は正しい愛護とは思えません。 結局はバランスが一番大切だと思います。 いいところだけを抜粋して伝えるのではなく、愛護団体も「安楽死」を含む保護の実態をしっかり伝え、考える材料を提供することが大切です。実態を知らずに風説の流布をしているのだとしたら更に問題ですが。 保護犬猫の実態を知ってもらい動物を終生飼育することの大切さを訴えていくという愛護団体の活動は個人的に応援したく思います。しかし、その為には常に自分達も潔白であることが必要だと思いますし、間違った欧米理論を展開すべきではありません。 いい事をしているのにどこかカルト的な動物愛護団体の活動もあるのは事実です。被害者意識を強く持つようになると、感覚がフェアでいられなくなるのが人なのかもしれません。