少なくともソニーはそういう意図も含みだと思いますが、それは副次的なことだと思います。再生周波数帯域のスペック表示についても、このような測定法のものでなければ表示してはいけないというような義務がとくにないことも巧みに利用しています。ヘッドホンやイヤホンの再生周波数帯域の測定についてはダミーヘッドなどを用いたものが実態に即した測定法だと思いますが、この方法だとかなり残念な数値になるため、メーカーはあまりそういうデータを開示したがりません。以下のサイトでは、そのような厳格な測定データがグラフ化されています。 http://www.innerfidelity.com/headphone-data-sheet-downloads 様々なメーカーの機種の実測データがのっていますが、基本的には左上のグラフの赤線の部分を比べてみると傾向の違いがわかるかと思います。例えば、ソニーが～80000ヘルツと称している「MDR-1R」ですが、2000ヘルツを越えたあたりから急激に音量が低下していて、マイナス30デシベルの音域がだいたい23000ヘルツ付近です。ちなみに、SHUREが～25000ヘルツと称している「SRH840」がマイナス30デシベルになる音域も同じくらいの音域で、公称のスペックに近似しています。SHUREの他のヘッドホンやイヤホンのグラフとカタログスペックを比較してみると、このグラフでマイナス30デシベルくらいになる音域がスペックの上限に近いことがわかります。もしかするとまじめに測定したデータをカタログスペックとしてのせているのかもしれません。仮にソニーの「MDR-1R」をSHUREのカタログにのせるとしたら、再生周波数帯域の上限は23000から25000ヘルツ程度の表記になるかと思われます。ここで重要なのは、同じ測定法で求めたデータを比較しなければ意味がないということです。 たぶん、ソニーが言っているスペックはドライバーの振動板の素材ごとの理論上の最大スペックのようなものでしょう。液晶ポリマーを振動板の素材に使用した「MDR-1R」と「MDR-Z1000」がともに～80000ヘルツ、液晶ポリマーにアルミコーティングした「MDR-Z7」と「MDR-1A」がともに～100000ヘルツとなっているのですが、ドライバー口径も構造も異なるヘッドホンの高音再生スペックの実測値がまったく同じになるとは思えないからです。つまり、ソニーのヘッドホンは高音再生能力が特別すぐれているわけではなく、ハイレゾ音源の情報を忠実に再現できているかどうかきわめて懐疑的です。 また、現実問題としてもっとまずいのは、ソニーの「MDR-1R」にしても「MDR-Z7」にしても、ハイレゾ音域はもとより可聴域内の高音の音量ですらかなり低減してしまっている点です。これだと、高音域が中低音域にマスキングされて、可聴域内ですら高音がよく聴こえないのではないかと思われます。聴こえるかどうかよくわからないハイレゾ云々以前の問題です。 つまり、本来であればハイレゾ音源の情報を忠実に再現できるレベルにない機種に、実測値とはかけ離れた非現実的なスペックを提示して「ハイレゾ向け」というお墨付きを与え、さらに消費者が勘違いすることを期待した「ハイレゾ対応」という表現を使うという、かなり手の込んだことをやっているということだと思います。